
2019.10.10

福島第一原子力発電所の事故で全町民避難を余儀なくされた福島県楢葉町で、地域の子どもたちが自由に創作を行ったり、自分の思いを表現できる居場所があります。認定NPO法人 底上げが運営する「ならはこどものあそびば」です。
この町で子どもたちの声が当たり前に聞こえてくるようになったのは最近のこと。成長に欠かせない、遊びや学びの“選択肢”が、今も限られている状況にあります。
認定NPO法人 底上げの日野 涼音さんに、この地域特有の子どもにまつわる課題や、活動を続ける中での変化を伺いました。

認定NPO法人底上げ 日野 涼音(ひの りょう)さん
山形県山形市出身。東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科(現:企画構想学科地域デザインコース)を卒業後、2019年に福島県楢葉町のまちづくり会社でのインターンシップに参加。福島の現状や楢葉町の魅力を知る。その出会いを通じ、もっと近くで楢葉町の歩みや楢葉の人々の生き方を見ていきたいと思うようになり、2021年、大学4年生の時に移住。現在は、福島県双葉郡、楢葉町を中心に、評価にとらわれず自分の気持ちを表現できる「ならはこどものあそびば」の活動を行う。
ようやく取り戻しつつある “あたりまえの日常”
私たちが活動している福島県双葉郡は、福島第一原子力発電所の事故により、長い間全町民避難を余儀なくされた地域です。人々が町に帰還した後も、子どもたちは、バスで通学をしなければいけませんでした。2022年度から徒歩通学が再開し、2025年度に入ってからは、だんだんと自分たちで自転車で遊びに行く様子なども見受けられるようになってきました。子どもたちが町なかを歩く景色が当たり前になってきたのは、最近のことです。
一方で、活動開始当初から課題にあげていた「選択肢の少なさ」は、まだ解消されているわけではありません。習い事や、放課後の選択肢が限られています。また、避難生活が長期化した影響か、自由に遊び込む経験や、自分自身で遊びを選びとる経験が少ない子も一定数います。子どもの数が少ないため、たくさん大人の目が届き、子どもたちは安全に過ごせる反面、ちょっとしたチャレンジや興味から始まる遊びに発展しづらいようにも感じています。
一緒に面白がってくれる大人たちとつくりあげる 子どもの居場所
2022年度より、ハタチ基金の助成によって、楢葉町で「ならはこどものあそびば」を立ち上げ、継続して運営することができています。震災後の地域では、子どもたちが学校と家庭以外で安心して過ごせる場所がほとんどなく、特に放課後の選択肢が限られていました。助成をいただいたことによって、放課後居場所の開所、自由に遊べる環境づくり、異年齢で自然に交流できる環境づくり、大学生インターンの受け入れといった活動を重ね、保護者や地域の人も気にかけてくださる厚みのある拠点になってきました。
最近では、放課後の選択肢の一つとして、ならはこどものあそびばを意識する声が聞かれるようになってきました。「あそびばが空いている日はなるべく行きたい!」という子もいれば、習い事や学童などと照らし合わせて、「この日はこっちにする!」と選んできてくれる子もいます。このような話を聞くと、選択肢の一つになってきたのだなと実感します。


ならはこどものあそびばの拠点では、大人たちは、何かした時に注意をしてくれる存在ではなく、一緒に面白がってくれる存在でいようと心がけています。そして、今年度からは、面白がってくれる大人の存在を増やしていきたいと考えています。あそびば周辺に住んでいる地域の方の顔を想像しながら一緒にできることや、子どもたちにとっても楽しいことができる場面を増やしていこうと考えています。
長期的に見守る中で感じる 子どもたちの変化
活動を通してわかったのは、子ども支援は短期間では成果が見えづらいということです。特に福島県での活動は、全町民避難の影響もあるためか、まだ復興とまちづくりの間を行き来している状況です。
そんな中、子どもたちの小さな成長を感じる機会がありました。2026年3月に開催した、1年間の子どもたちの様子を展示する「成果展」でのことでした。過去に行ってきた成果展では、スタッフが子どもたちの様子をまとめ、展示する方式をとっていましたが、今回初めて、何を展示するかを子どもたちと一緒に決めることにしました。
「あそびばのことを伝える展示があるから、何を展示したいか決めて、そのために作品を作ってもいいよ」と伝えたところ、昨年までの子どもたちでしたら、作っている間に飽きてしまったり忘れてしまったりすることが多かったのですが、あそびばに長年通ってくれている子を中心に、企画から制作までをやりとげました。

また、昨年までの成果展は、あそびばの子どもたち向けではなく、地域の人むけの展示でした。今回、子どもたちも企画に関わったことで、あそびばの子どもたちが積極的に展示に訪れ、自分の口で来館者に、普段の様子を説明する姿も見受けられました。遊びに夢中だった子どもたちが、年齢を重ね、自分の状況を言葉で伝えられるようになったことを実感しました。
小さな子どもたちの変化はあるものの、それが地域全体へと波及していくには、もう少し時間がかかりそうです。また、民間の子ども支援に携わる人が少ないのも課題の一つです。課題は山ほどありますが、今後も、子どもたちが自由に自分を表現できるよう、後押しをしていきたいです。

福島の子ども支援は まだまだこれから
福島県の子ども支援は、まだまだ始まったばかりだと感じる場面が多いです。やっと子どもたちが帰ってきて、子どもたちが日常に存在していることが当たり前になってきました。東日本大震災からコロナ禍をへて、地域の人と子どもたちの関係性も震災前のようにはいかなくなっている現状もあります。
子どもたちには出会いの機会を増やし、視野を広げていってほしいという願いもあります。助成いただいた活動の中で、あそびばに通う子どもたちと一緒に初めて宮城県を訪れ、他の町でのあそびばの実践を見にいくことができました。他地域でも子どもたちと一緒に学ぶ機会を増やして行き、子どもたちがもう少し大きくなったときに、その経験を思い出して、自分たちの行動へと繋げて欲しいと考えています。
小さな町だからこそできる活動がまだまだたくさんあると感じています。今後もご支援のほどよろしくお願いいたします。

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