2020.03.26
2022年度に助成先に新しく加わった団体をご紹介する連載シリーズ。
今回は、宮城県石巻市を拠点に活動をするNPO法人かぎかっこPROJECTです。
かぎかっこPROJECTは、2014年から、石巻で復興や地域の担い手となる若者の育成プログラムをデザインしてきました。活動を行う中で、地域には魅力的な人・もの・暮らしが、石巻圏域をはじめとする東北に存在することを肌身で感じたそうです。今回は、ハタチ基金の助成で実現した「高校生百貨店」の活動を通して起きた、子どもたちの成長や変化について、かぎかっこPROJECTの神澤祐輔さんに伺いました。
神澤祐輔(かんざわ ゆうすけ)
NPO法人かぎかっこPROJECT代表。
前職で建築関係の仕事をする中、ハード面だけではなくソフト面を意識したものづくりや機会を作りたいと考え、2013年より宮城県石巻に入る。その翌年、NPO法人かぎかっこPROJECTを設立。
■被災経験はあるけれど震災の影響を想像できない子どもたち
震災直後、未就学児だった子どもが今高校生となっていますが、その多くはほとんど震災の記憶がありません。震災の経験や震災についての自分の考えを話せる子どもが少ないように感じています。もちろん個人差はあると思いますが、私たちの活動に参加する高校生に話を聞くと、授業や修学旅行等で東北の被災地の話を聞いたり、現地に行くこともあるそうですが、なかなかそれだけで震災を自分事に考えるのは難しいようです。
震災で無くなったものが大きすぎて、今はもう形がないものを高校生が想像するのは難しいと思います。一方で、今身近に存在する、ものやお店や地域の人々が、震災をどう乗り越えたのかを聞くことができると、改めて震災の影響を実感できると接していて感じています。
震災後に、様々なチャレンジを始めた団体や個人の方が、被災地にはたくさんいます。そういった方々と高校生が出会える機会を私たちは作れるようにしています。
その一つ、地域の担い手育成プログラムとして、「高校生百貨店」というプログラムを実施。ハタチ基金の助成のおかげで実現できました。
高校生百貨店は、高校生がバイヤーとなり地域の魅力ある商品を発掘し、市外で販売会を開きます。ただ単に物を売るのではなく、商品を発掘する中で地域の人と出会い、販売を通して多くの方に地元の魅力を自分の言葉で話すことを大事にしています。
2022年度は岩手、宮城、福島、大阪の4箇所で販売会を実施しました。
インタビューをする中で、高校生たちは、震災の影響を受けた生産者から震災当時の話を聞くことがよくあります。「機材が全部ダメになって新しいものを買うのに借金をこれくらいしたよ」「震災があったけれど今もお店を頑張っている」「震災があっても同じ地域で再建することを決めた。他の地域に移ることは考えられなかった」など、地域の人たちの本音や踏ん張ってきたパワーはどんな教材よりも心に響くのでしょう。
高校生たちが「そんな想いのこもった商品は絶対に完売させよう」「大事に売ろう」「作り手の想いをお客さんに届けよう」と目の色がかわる瞬間を傍で見ていて感じます。2022年度は3県合同のワークショップや販売会を実施し、高校生たちが積極的に他地域の同世代と交流をする機会にも恵まれ、とても高校生の前向きさを感じることもできました。
オンラインでのコミュニケーションは対面よりはるかに難しいにも関わらず、高校生たちは打ち解けるのが早く、販売会で対面で初めて会えた時にはとても喜んでいる姿も。元々オンラインで活動をする前提で参加者を募集したため、ある程度意識のある高校生が参加してくれたと思いますが、なかなかこういった活動に参加する母数が少ない中で、他地域に同志がいるということが高校生にとって喜びに繋がったのではないかと思います。
活動に参加する前は、「地元には魅力がない」「早く地元を出たい」と思っている高校生もいました。しかし、高校生百貨店を通して「自分の地元はこんなにも魅力がある町だったんだ」「いつか地元に帰りたい」と、自分の今の暮らしを肯定できるようになっている様子も見受けられました。
高校生と地域が関わりを持ち、地元愛を育むことができる活動を、これからも実施していきたいと思っています。
■寄付者の皆様へのメッセージ
ハタチ基金にご支援をしてくださる皆様、いつもありがとうございます。高校生たちは活動を通して、自分の地元、東北という地域を好きになり、自分の言葉で東北を語ることができるようになってきています。高校生が大人になっても、東北が彼らにとって大事な場所になるように。これからも東北の魅力を発信し、地域の輪が広がっていくことを願いながら、私たちも引き続き活動をして参ります。
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