2018.04.04
ハタチ基金の助成対象である認定NPO法人フローレンスは、東京と仙台で保育園を18園運営しています。
東日本大震災後、待機児童問題が地域の緊急課題となっていた仙台市に、フローレンスが小規模保育所「おうち保育園」を開園してから5年。現在「おうち保育園こうとう台」「おうち保育園木町どおり」「おうち保育園かしわぎ」の3園を展開しています。
今では仙台市内には保育園も増え、待機児童問題が徐々に解消されてきている一方で、『障害児の保育園受け入れが進んでいない』という現状があるといいます。そこで、「おうち保育園かしわぎ」に通う、障害のあるお子さんの保護者の方と先生たちにお話を伺ってきました。
◆仙台市の中で、障害児をあたたかく迎え入れてくれる保育
「おうち保育園かしわぎ」で元気いっぱい過ごしているサチ君とヨウスケ君のお母さんも、お子さんが障害を持っているために入園できる保育園がなかなか見つからず、苦労をした経験者。
そんなお二人と、当時入園の相談にのった元かしわぎ園長・山本先生にインタビューさせて頂きました。
プロフィール
前列右端:元おうち保育園かしわぎ/現おうち保育園こうとう台園長・山本
2018年度までかしわぎ園園長を務め、今年はこうとう台園園長として勤務している。
前列中央:白浜さん(仮名)
ヨウスケ君(仮名。前列右から2番目、現在2歳)のママ。2019年4月、ヨウスケ君が1歳の時に
おうち保育園かしわぎに入園する。夫婦で八百屋を経営。
前列左から3番目:足立さん(仮名)
サチ君(仮名。前列左から2番目、現在3歳)のママ。おうち保育園かしわぎに入園して2年ほど。
自営業を営む、3児のお母さん。サチ君は、3番目のお子さん。
※座談会は2019年9月に行ったものです
◆障害がある子をもつ親は「働く」ことを選べない? 子どものためにも保育園に通わせたい保護者の悩み
――まずは白浜さんのお子さんについて教えていただけますか。
白浜さん:ヨウスケは小さく生まれ、成長がゆっくりでした。病気がちでもあったので病院で診て頂いたら、障害があると診断されて。「ルビンシュタイン・テイビ症候群」という珍しい障害であるとわかりました。でも、お友達と一緒に過ごしたり、独り立ちに挑戦できる道はないか?と保育園の入園を希望しました。
――病院の先生は、特別な療育施設ではなく、一般的な保育園に登園ができるという判断だったんですね?
白浜さん:いえ、うちの子は、主治医からこの先もし食べられなければ胃ろうだと言われていました。それを聞き、私も敏感になって「この子はゆっくり大切に育てなきゃ」と思っていたんです。保育園の入園についてもその時は考えられなかった。
でも、差し迫って管を入れるなどの医療的ケアが必要ではなかったので、思いきってこの保育園に入れてみました。そうしたら入園後すぐミルクが離れて、ごはんに切り替えられたんです。胃ろうどころか、すぐにごはんが食べられるようになるなんて予想もしていませんでした!
(写真:色んな事に興味しんしんなヨウスケ君。家族や友達、先生たちと一緒に毎日楽しく過ごしています。)
――すごい!保育園に入ってから?
白浜さん:できるようになっちゃった(笑)やっぱりお友達と一緒にいる力ってすごいな。思いきって子どもを外の世界に出してみたら、色んなことを吸収して、どんどんできることが増えていきました。
――それはすごいですね。足立さんのお子さんはどうですか?
足立さん:うちは白浜さんとは逆で、子どもが大きく4500グラム近くで生まれました。身体のいろんな部位が一般の子より大きい、先天性の病気です。例えば、舌も大きいので、発音に問題があったりするんです。発達も年齢に対してゆっくりです。でもヨウスケ君と同じで、この園に来たら普通の発達曲線に乗れて、今ではペラペラしゃべります!
(写真:サチ君(写真中央)とお友達。体格、髪の色等が違えども、それは個性。皆とっても仲良しです。)
――お子さんの発達を理由に、働くのを諦める選択が頭をよぎったことは?
白浜さん:まだ障害の診断が出ていない頃に保育園入園を考え、区役所の保育課に問い合わせた時のこと。「息子は少し発達が遅いのですが」と伝えました。そうしたら「受け入れられる保育園はない」と言われてしまい、とても驚きました。さらに、「本当に働くの?まだ小さいし、お母さんと一緒がいいのでは」とも。
普通の子は保育園に行けるし親も働けるのに、子どもに障害があるとそれだけで、親は働くことも駄目なのかと思いました。
足立さん:私も、役所の窓口で「無理して働かなくていいんじゃない?」と言われました。
白浜さん:帰宅してから、モヤモヤしてきて。あれは『働いちゃ駄目』ってことかな。『障害ある子をもつ、他のお母さんは働いていないよ。なのに、あなたは働くの?』と責められたように聞こえた。嫌だな、納得できないなと思ったんです。
――足立さんも最初、保育課で「受け入れられる保育園はない」と言われていたんですか。
足立さん:保育課で「本当に申込書を出すのか?」と何度か言われましたね。お願いしたものの、その区からは「絶対駄目だと思う」「空いている園はない」と、結局一園も紹介してもらえなかったです。絶望しました。「本当にないんだ」と……。
でも諦めきれず、別の区にも行きました。結果、空いている園が一つあったので見学に行くと、障害に関する分厚い資料を渡され、「入園は大変ですよ!」というようなプレッシャーを感じました。案の定、すぐに入園お断りの電話がありました。
園見学は、おうち保育園かしわぎを含めて3つ行きましたが、他の2園からは「前例がない」と断られてしまいました。
白浜さん:私も2、3園チェックしていたんですが、断られました。次々拒否されるうちに、無理に入園させてもらうのはわがままで悪いことなのかも。うちは迷惑な親子なのかなと思えてきてつらかった。
――大変なご苦労をされてきたんですね。おうち保育かしわぎは「企業主導型保育園」なので、普通の園と入園手続きが違うと思うのですが、山本園長、ポイントを教えていただけますか?
園長山本:入園は行政を通さず、園と保護者が直接契約します。ですから、保護者から直接園に入園申し込みをいただき、面接・入園契約、という流れです。また、保育料は一般的な認可保育園と同程度で、利用者の料金は一律の金額になっています。
――なるほど。いわゆる行政を通した保育の必要性認定が関係ないから、世帯年収による保育料の違いもないし、自営かどうかで点数が下がることもないですね。足立さん、白浜さんは、どういうきっかけでおうち保育園かしわぎを知ったんですか?
足立さん:私は、フローレンス代表の駒崎さんのSNSで定員に空きがあると知り、入園説明会に参加しました。
この園でも入園を断られるだろうかとおそるおそる相談したら、山本園長先生が「え?!入園のなにが駄目なんですか?」と言ってくれて、予想外な反応でした(笑)私も驚いて「本当に入園、いいんですか?」って。
園長山本:「なにが駄目なんだろう?」って、逆に思ったんですよ(笑)
(写真:遊ぶ時は子どもたちと一緒に全力で。熱いフローレンス魂を胸に秘める山本先生。)
足立さん:私、入園先を探して他園をまわっていた時、ずっと謝っていたんです。
「うちの子、すみません。障害があるんですが、入園いいですか」と。でもこの園では、私が「すみません」と口にすると、園長先生が「どうしてそんな風に謝るんですか?」と言ってくれ、私にも子どもにも、他の皆と変わらず接してくれました。
白浜さん:うちも、入園を断られてどうしようかと思っていた矢先、知り合いから「フローレンス、知ってる? 保育園をやっているみたいだよ」と教えてもらいました。
園長山本:お知り合いの方、神ですね(笑)
白浜さん:本当に(笑)ダメ元で入園説明会に行ってみたら園の雰囲気も良く、親身に話も聞いてくれて。もう絶対ここに入りたいと思いました。
園長山本:お二人から、何園も断られたという話を聞きました。もっと早くに、うちの園に来てくれていたら!
白浜さん:説明会の時、先生方に子どもを預け、初めて親と離れて過ごしてもらったんです。そうしたら先生や友達と楽しそうに遊んでいて。「息子自身も自立を望んでいるのかも。外の世界で楽しく過ごせる可能性があるんじゃないかな?」と感じ、入園したいと思いました。私の仕事のこともあるけれど、子ども本人のためにも!
(写真:2019年1月のサチ君とお母さん。この日は園で餅つき大会。皆で仲良く、美味しいお餅を食べました。)
◆障害の有無で子どもたちの可能性を否定しない
――先程のお話ですと、山本先生が逆に「何が駄目なのか?」と聞いてしまうような、驚きの対応をされたということなのですが(笑) 山本先生は、どの園の入園も断られていたお母さん方の相談に乗り、どう思いました?
園長山本:おかしいな、と思いました。フローレンスの中で「障害」は、「壁」になりません。子どもに障害があっても保護者が「働くこと」を選択でき、障害があっても皆と共に生活できる子ども達であって欲しいと思っています。子ども達も一人間です。障害の有無で子ども達の可能性を遮るのは違う、という思いがあります。
――なるほど。「障害」は「壁」にはならないと。
園長山本:例えばフローレンスでは、外国の人の受け入れも普通に行います。「肌の色や言葉の違いに、隔たりはない。皆一緒」というスタンスです。それぞれの子ども達が一緒に生活していく中で、助け合い、相手を思いやる気持ちが育ちます。
――障害は、肌の色が違うとか、髪の毛がくせ毛だとか、それと同じようにお子さんの個性ということですね。
園長山本:障害に対し支援は必要かもしれないけれど、「障害は悪いこと」では決してありません。私達に苦手なこと、出来ないことがあるのと同じです。
――預け先がなく思い詰めていた時、お母さん方はこのように言われ、どう思いましたか?
白浜さん:存在を認めて丸ごと受け入れてもらえた、救ってもらった感じがしました。
足立さん:この園に来るまでは、「この子はどういうことが出来ないの?」とマイナス面ばかり質問されていました。そうなると、私も無意識に「すみません」と言ってしまう。でも、おうち保育園ではそれが全然なかった。「すみません」ばかりだった自分を、おうち保育園が変えてくれたんです。
園長山本:園からは、必要な支援を教えて欲しいとお話しました。お母さんから「言葉が少し苦手です」と相談があれば、「いっぱい話しかけますね」というようにお伝えしました。
(写真:他のお子さん達と一緒に、自分の力でご飯をパクパク食べるヨウスケ君。食欲旺盛です。)
◆保育園生活にチャレンジしたことで、子ども自身の生きる力が育ってきた
――先程、お子さんが入園してすごく成長したとのことでしたが、具体的に「これは予想していなかったわ!」という変化はありますか?
白浜さん:いっぱいあり過ぎて……。先程も紹介したように、ヨウスケは吐き戻しも多く、胃ろう手術の可能性もあったほど食事の摂取が一番の悩みで、入園前までは例えば麦茶にとろみを付けたものや、ミルクを飲んでいました。でもいざ入園して、お友達が食べている姿を見て心境の変化があったのか、食事がだんだん進むようになってきて。家でもおやつをパクパク食べられるようになった!
――食べられるようになったんですか!
白浜さん:バナナを食べた時は感動して、「この子が食べた! できるようになるとは思わなかった!」と喜びました。4月に入園して、同月末にミルクを卒業して食事に切り替えられたことが、すごい驚きでした!
――子どもって予想を遥かに超えてきますね。
白浜さん:子どもの力を、私自身が信じてなかったんです。でも入園したら興味や自己主張が活発になって、どんどん「あれもやりたい、これもやりたい」と、出来ることも増えて。ちょっと予想外(笑)もっと静かで大人しい子かと思ったら、すごい活発系! 本人に意欲があったことが、すごく嬉しかったです。
(写真:バスに乗って、少し遠くまでお出かけすることも出来るようになりました。)
足立さん:私は入園するまでは不安が多く、子どもを外で思い切り遊ばせていなかったんです。でも入園して多くの信頼できる人に出会えたことで、子ども自身がいろんなことを自分一人で出来るようになり、驚きました! 入園したことが、子ども本人のためにとてもなっているなと感じます。
――お子さんにとって、自分の気持ちを安心して出せる場所になっているんでしょうね。
足立さん:子どもだけではなく私自身が、この保育園では100%自分の気持ちを安心して出せる場所になっています。
白浜さん:自分の家以外に存在を認めてくれる場所が、一つでもあったことはとても自信になりました。障害のある子をもつママ友に、保育園に通っているとお話すると、「うちも入れたいけれど、受け入れ先がない」「どこの園?」と、聞かれます。
園長山本:ぜひおうち保育園に来てほしい!
――受け入れは仙台の、かしわぎ以外のおうち保育園も大丈夫なんでしょうか?
園長山本:私達としてはぜひ受け入れたいのですが、仙台にある他2園のおうち保育園は行政による認可保育所の区分になります。ですので、たとえ私達が受け入れたいと言っても、もし区の窓口で断られてしまうと、入園できないんです……。
――認可だと、行政の保育課経由なので受け入れが難しい場合があるんですね。おうち保育園かしわぎは、企業主導型の保育園なので様々な条件に対して柔軟に対応できます。
園長山本:そうですね。障害児もそうですし、発達が心配だというお子さん、保護者が求職中であるとか、パートタイム、といった通常保育認定のポイントが少ない方でも受け入れが可能です。
――おうち保育園かしわぎに白浜さん、足立さん親子が出会ってくれてよかった! 奇跡的なお話をたくさん聞けて、とても感動しました。では最後に、同じように悩まれているかもしれないお母さんやお父さん達に向けて、一言ずつ頂けますか?
白浜さん:私は最初、障害がある子どもがいると、自由に選択出来ない人生しかないのかなと思っていました。けれど、私はこの園に出会えた。息子も自分で選んで、ミルクを卒業してご飯を食べました。だから「諦めないで。楽しい未来が待っていますよ」と伝えたいです。こういう園が全国に広がって、少しでも同じ悩みを抱える保護者が、下を向かず、自分の生き方を選んでいける世の中になって欲しいと思います。
園長山本:素敵。ぜひ園のスタッフとして来て欲しいくらいです!(笑)
白浜さん:では八百屋がつぶれたら、ぜひ(笑)
足立さん:私は偶然フローレンスを知っていて、幸運な結果になったけれど、他の方にとってはまだまだ情報の格差があると思うんです。例えば役所や発達支援施設、保育園などの間で情報の共有がされていると、入園までもっとスムーズになっていいな、と。
――保護者の方がどこに行っても同じ話をして、同じ断られ方をされたら、辛いですよね。
足立さん:役所や発達支援施設が、私たちの例をポジティブに捉えてくれて、今後もし困っている方の対応をする際に「素敵な保育園がありますよ」と、紹介してくれたらいいのですが。
――行政が本当にやる気になってくれないと、なかなか変わらないですものね。すごく大事な意見、ありがとうございます。では最後、山本先生お願いします。
園長山本:仙台ではこういった園の数が限られていて、入園できる、できないの差がある現状が、変わっていって欲しいと思います。また、本当に困っている保護者の皆さんにたくさん頼ってもらえる園を目指して、これからも日々精進していきたいなと思っています。幸運なことに私の周りには、この想いに共感してくれ、素敵な保育をしてくれるおうち保育園・仙台のスタッフが大勢います。私一人では出来ないことも、想いを共にするスタッフが一致団結すれば、必ず達成できると信じています!
――おうち保育園は仙台に3園ありますからね。
フローレンスは「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」を目指して多様な保育現場を運営する事業者です。これからもいろんな親子に笑顔をお届けしていきたいですね!本日はありがとうございました。
(写真:「Give upをStep upに!」をモットーに、これからもおうち保育園かしわぎは「みんなの笑顔が溢れる社会」を目指して頑張ります!)
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