2020.03.05
2022年度の助成先団体を紹介する連載シリーズ。
今回は、岩手、福島の東北2県で、震災の影響を受けた子どもたちが、安心して学ぶことができる放課後の居場所を提供する「認定NPO法人カタリバ」です。
活動場所のひとつ、コラボ・スクール大槌臨学舎の高木桜子さんに、子どもたちの様子や現在の課題について伺いました。
コラボ・スクール大槌臨学舎 高木桜子さん
岩手県大槌町出身。中学1年生のときに被災。自宅は流され、その後仮設住宅で暮らした。中学3年生になった頃、認定NPO法人カタリバが運営する被災地の放課後学校「コラボ・スクール大槌臨学舎」へ通っていた。大学進学のため上京したが、地元大槌町の子どもたちのために働きたいと考え、2021年、Uターンで新卒の職員として入職。
やりたいことや自分の気持ちを 口に出せずに気持ちを抑えてしまう子どもたち
私が子どもたちの支援をしている、岩手県大槌町にある「コラボ・スクール大槌臨学舎」は、大槌高校内の2つの教室を利用して、放課後、中高生の日々の学習や探究学習、キャリア学習の支援などを主に行なっています。
この町の中高生の多くは、幼い頃に自分や家族に被災経験があります。そして今もなお、その経験や家庭内の事情が影響して、学習環境の悪化に繋がる生徒もいます。どんな子どもでも意欲と創造性を持ち、未来を創り出す力を育めるように。こうした目的で、日々訪れる生徒たちと向き合っています。
大槌町は人口約1万人の小さな町で、進路や将来を考える際に、子どもたちの視野が狭まるといった課題を震災前から抱えていたそうです。震災が起こった後、住んでいる場所によって被災状況が異なる中、震災について自分自身が感じたことや、考えていることを周りに言いづらい時期が長く続きました。
その2つの課題の影響で、震災前よりも、自分自身のやりたいことや進路など、自分の意見を言うタイミングを抑えてしまう子どもが多いように感じています。
震災時に中学1年生だった私も、当時は家族への経済的な負担も考えて、やりたいことを口に出さずに諦めの気持ちでいました。そんなときに、コラボ・スクールのスタッフが、経済的に負担がなく実現できる方法を一緒に考えてくれ、その結果、学費を自分で稼ぎながら大学に通い、イギリス留学も実現することができました。
被災した家庭の子どもたちは、同じ被災経験がある親や友だちには言えないことがたくさんあると思います。私自身も親には言えないことをコラボ・スクールのスタッフに受け止めてもらったことによって、「本当はこんなことがやりたかった」という気持ちに気づけたり、これまで出会うことの出来なかった人や機会にも恵まれました。色んな選択肢を提示してくれ、一緒に考えてくれる大人がいたからこそ今の自分があると思っています。
「大槌町だからできない」「震災が起こったから出来ない」ではなく、様々な人との出会いを楽しみ、自分から動き出せばやりたいことに近づけること。やりたいことを諦めないで欲しい。そして色んな大人や周りの人に頼って欲しい。そういったことを伝えるとともに、少しでも地元の子どもたちにとって頼れる存在になれるよう活動を続けています。
学力に自信を持てなかった生徒が 一歩踏み出す後押しに
先日、嬉しい出来事がありました。学校では真面目に授業を受けて勉強をする中、今ひとつ学力に自信が持てずにいた生徒がいました。
この生徒が英語の宿題をやっていた際、英語が得意ではないと言ったことに対して、私が中学高校時代に、コラボ・スクールで英会話のプログラムを受けていた話を伝えました。私自身も英語は得意ではなかったけれど、英会話を始めたことがきっかけで英語が好きになったことを話すと、実は英会話をやってみたいと思っていたことを教えてくれました。
その後、英会話を学習するようになり、徐々に理解出来る言葉が増え、英検に合格することもできたのです。結果が出ると、どんどん英語への意欲も高まり、英会話を学習している他の生徒へのライバル心を口に出すようになったり、英語のスピーチにもチャレンジすることができました。
プログラムの中で英語でスピーチをする発表会では、「将来は大槌町で英語を話せる大工さんになりたい」という言葉が。
それを聞いて、とても胸が熱くなりました。その子が本当はどんな気持ちでいるのか、子どもたちのちょっとした言葉に耳を傾けながら。やりたいことをどうしたら実現できるのかを一緒に考え、支えていきたいです。
寄付者の皆さんへのメッセージ
改めて、いつもご支援ありがとうございます。私も含め自分たちの世代や、私の妹や弟の世代、そしてこれから育っていく大切な大槌町の後輩たちが、自分自身が納得できる進路選択をして、後悔のないように生きて欲しいと思っています。引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。