2015.03.18
宮城県女川町は、東日本大震災以降加速する人口減少によって、都市部の子どもたちに比べ、教育や機会の格差が顕著になっています。中高生の居場所「女川向学館」の活動を続ける、ハタチ基金の助成先団体 一般社団法人まちとこ。これまでの活動に加えて、今の町の小中高生の課題とも向き合い、子どもたちの視野を広げる機会の創出に取り組んでいます。活動を続ける髙橋倫平さんに、現在の子どもたちの様子を伺いました。
一般社団法人まちとこ 髙橋倫平(たかはし りんぺい)さん
宮城県石巻市で生まれ、震災当時は中学生。両親が教員だったこともあり自身も教員を目指す。教員免許が取得できる大学に進学するも、大学3年生のときに「自分がやりたいのは教員ではなく教育そのもの」であると気づく。その後、1年間休学し、認定NPO法人カタリバの長期インターンシップに参加。宮城県女川町の女川向学館で子どもたちと共に教育について学ぶ。インターン終了後に復学し大学を卒業。現在は、カタリバから女川向学館事業を引き継いだ一般社団法人まちとこで活動中。
震災が加速させた人口減少がもたらす 教育環境の格差
東日本大震災から13年が経過し、住居や町の復興など表面化していた課題は減りました。しかし、震災が引き金となり加速した人口減少は依然として大きな問題です。人口減少は、特に若い世代に顕著で、子どもたちの教育環境にも大きく影響を及ぼしています。
人口約6,000人の女川町では、10代後半から20代の若者が非常に少なく、子どもたちを支える地域の基盤が弱くなっています。特に20代前半の「少し年上のお兄さん・お姉さん」の存在は、子どもたちが憧れを持つロールモデルとして重要です。この世代が近くにいることで、大学進学へのイメージが具体的になり、目標設定の助けにもなります。
「少し年上のお兄さん・お姉さん」によって起きた変化
ハタチ基金の助成のおかげで、女川町の子どもたちに多様な学びの機会を届けることができています。
全国の大学生を対象にインターンを募集し、毎年3名ほどの大学生が1年に渡り子どもたちの活動に関わってくれています。地域の子どもたちにとっての「少し年上のお兄さん・お姉さん」として交流を深めてもらい、宮城県外の大学生と子どもたちが互いに学び合える仕組みをつくりました。
大学生インターンが日常的に関わることで環境に変化もありました。子どもたちが他のスタッフにも気軽に頼る場面が増えていきました。特に若いスタッフには日常的な話や学習以外の悩みに加え、たわいもない話をする姿も見られます。子どもたちとのコミュニケーションが深まることで、安心して過ごせる環境が生まれたように感じています。
多様な出会いから生まれる 子どもたちの新たな視点や広がる世界
女川町の子どもたちは幼少期からほとんど同じメンバーで過ごします。震災前からこうした傾向がありますが、震災後は人口減少が加速したことによりより顕著です。高校進学時に初めて新しい同級生に出会い、これまで一から友人関係を構築した経験が少ない彼らは友達づくりに苦労することがあり、中には不登校になってしまうこともあります。
そのような課題を緩和するためにも始めた「夏のともだち」という夏休みイベント。東京の小学生を女川町に招いて、女川の小学生と一緒に3泊のキャンプを行います。今年で2回目の開催となりました。女川の子どもたちは地元の魅力を紹介し、キャンプ終了後には「また来年会おうね」「東京にも遊びに来てね」といった会話が生まれていました。
このイベントを通じて「新しい友達づくり」を経験することで、子どもたちは、外の世界への理解が深まっていたように思います。女川の日常が他地域の子どもたちにとって非日常であることに気づくなど、新たな視点も生まれています。
女川町以外にも友達がいると感じられることは、子どもたちの視野を広げ、大人になってからも心の支えになると考えています。このイベントもハタチ基金の助成のおかげで実現することができ、多様な出会いを創出するという目標を達成することに繋がっています。
震災からもうすぐ14年 長期的な支援が必要な理由
13年間の活動を通じ、地域や保護者たちの女川向学館の認知度が大きく向上しました。兄弟姉妹が利用する際も安心して通ってくれていたり、地域イベントへの参加機会が増え、地元の信頼を得ることができていると感じます。
また、継続的に活動ができていることで、今年発生した能登半島の被災地支援でも、これまでの経験を活用することができました。女川で培った子どもたちとのコミュニケーション方法が、能登の子どもたちの支援にも非常に役立ったのです。
震災後の教育課題は減少しましたが、過疎化や教育の多様化など新たな課題が生じています。女川向学館が地域の日常に溶け込み、重要な役割を果たしていると日々感じており、ご寄付をくださっている皆さんの長期的な支援に心より感謝申し上げます。
次の災害に備え、子ども支援のノウハウを増やしていくといった意味でも、皆さんの継続的なご支援が必要です。よろしくお願いいたします。