2015.12.11
皆さんは、福島の農作物を日常で食べていらっしゃるでしょうか。ハタチ基金の助成先団体のひとつ、NPO法人キッズドアでは、この春、福島の農園で中高生が農業体験をする中で現状を学びました。キッズドアでは、震災の影響を受けた世帯や、経済的に困窮している世帯の中高生を対象に無料学習会を開催するなど、家庭環境に関係なく学びの場を提供する活動を行ってきました。こうした課外活動も、福島、日本の課題を子どもたちに伝える重要な学びの場となっています。今回は、農業体験で子どもたちが、見て、感じたことをお伝えします!
■放射能汚染、風評被害を乗り越えて 安心・安全な農作物を届けていきたい
2022年3月、晴天の中、仙台から貸切バスで福島県二本松市へ。
中学生12名、高校生5名、大学生(ボランティア)5名、スタッフ3名、総勢25名が、二本松農園での農業体験『スタディー・ファーム』に参加しました。
豊かな自然と大地を有する福島県で、新鮮で安全、美味しい農産物を生産しようと日々努力し、農業を生きがいにしながら全国の消費者と結びついてきた農業生産者の方々。
しかしながら、東日本大震災における「福島第一原発事故」の影響により、農業を営む上での基本である農地が放射能に汚染されてしまったばかりか、安全性を充分確認しているにも関わらず「福島県産」というだけで消費を敬遠する行動、いわゆる「風評被害」が広まってしまいました。
「NPO法人がんばろう福島、農業者等の会」では、福島第一原発から50㎞地点にある二本松農園を主な農園として福島県内の54の会員農家と連携。福島という地で今後も安全で美味しい農産物を作り続けるとともに、再び全国の消費者の方々と結びついていきたいと決意しました。
いつの日か福島県が「世界でいちばん安全でおいしい農産物を生み出す希望の大地」にすることを目標に、この団体は設立、運営されています。
二本松農園到着後、小高い丘の上に上り、代表の齊藤登さんよりお話を聞きました。
~原発事故が農業に与えた影響と、放射能対策~
実は、ほとんどの農地で除染は行われていません。行われているのは「吸収抑制」対策です。セシウムは田んぼと畑にあるものの、塩化カリウムを散布すると農作物は放射性物質よりも先にこれを吸収しセシウムを吸わずに育ちますので、稲や野菜からは放射能は検出されません。とは言えいまだに風評被害はあります。
大半の人はこのメカニズムを知らない。みんな「なんとなく症候群」に陥っているだけなのです。何十年も前、「水俣病」がニュースになり、「水俣」という名前がついている農作物は全国的に売れなくなりました。現在でさえ「水俣みかん」は売れないので「熊本みかん」として売っているという現実があります。
10年前から福島県内の農家と連携し、東京上野に毎週通いながら直売を続けてきました。直接お客さんに会って話すと、みんな理解してたくさん買ってくれます。福島農業のマイナスイメージを消すためにはだいぶ時間がかかると思いますが、だんだん減っているという手ごたえはあります。
合言葉は「顔の見える関係に風評被害は無し!」
3チームに分かれて農業体験がスタート。マリーゴールドの種まき、スティックセニョールの苗植え、牛糞堆肥の土嚢詰めを行いました。最初は牛糞と聞いて「臭いから嫌だ」と言っていた子も、実際に触れてみると全然臭いが気にならず、黙々と作業をこなしていました。
終わった後は、杵と臼を使った「餅つき」を行いました。餅つきを初めて体験した子どももいます。もち米3升(30合)を、ぺったんぺったん、滑らかになるまでついていきます。
つきたての柔らかいお餅をきなこ、あんこ、ピーナッツや野菜汁にいれて昼食となりました。二本松農園のスタッフとそのご家族の皆さんと一緒に、美味しくいただきました!天候にも恵まれて外で食べるごはんは最高の味でした。
■農業体験を通して、中高生が感じた“放射能と農業”
午後からは、二本松農園近くの二本松市地域文化伝承館へ行き、今日の学びをみんなでシェアしました。
<学んだこと>
・放射能の強さは原発からの距離ではなく、風向きの影響が大きい。
・風評被害は11年経った今でも存在する、私たちがもっと知り広められたいと思った。
・言葉だけでイメージを作るのは危険、何となくで決めつけるのではなく「知る」ことが大切。
・野菜を育てるのには時間や手間暇がかかるので、もっと感謝して食べよう。
<気づいたこと>
・実際に風評被害に遭われた方の大変さを少し実感することができた。しかし放射能は怖いと思う気持ちもある。
・東京まで毎週一人で販売に行くという話を聞いて大変な苦労だと思った。今までと違う売り方には農家の協力性や努力がある。
・里山の景色がきれい、外の風にあたって食べるご飯はおいしい。
・多くの家族が集まり協力して行う農業は素敵だなと思った。
・農業は地道な作業を繰り返すことで成り立つ営みだと思った。
・二本松農園のスタッフは若い人が多くてびっくりした。
<感想>
・農業体験や餅つきなどの体験をして、食に対する価値観が変わった。
・牛糞を土嚢袋に詰める作業と言われて正直引いたが、その仕事をしてくれる人がいるからこそ農業は成立していると気づいた。
・いつも一人で種植えをやっていると聞いて、腰と身体の体力がすごいと思った。
<私たちにできる行動・アクション>
・なんとなくではなく根拠をもって大丈夫だと勧める。
・色々な体験に参加してみる。
・食材を無駄にしない心を持ち、ありがたみを感じながら食事する。
・身近な人から情報発信。
・人との関わりを大切にする。
・辛かったり自分がしたくない仕事でも自分がすることで得られるものがあると前向きに考える。
・今日感じた良い所や魅力的な所を家族や友達にしっかり伝えて農業に興味をもつ人を増やす。
・農業体験をしたことで「食」をつくる大変さを知ったので「食」を大切にする。
・「食」には環境も影響するので、ごみを減らす努力をする。
・モノを買う時、なんとなく安いから…ではなく、理解して買うようにしたい。
・まず自分で確かめようと思う。
・家庭科で習ったように、物を買うことはその商品に投票することだという言葉を実感した。理科と社会をもっと勉強しなきゃ!
<二本松農園 齊藤登さんより>
「食」は生きるために絶対必要なもの。そもそも食をお金で操ること自体に疑問を感じている。お金の無い人は食を手に入れられない、ウクライナで餓死するという世の中を変えていきたい。どんな状態にあっても誰しもが「食」を得られるように。これからも「顔の見える関係」を大事にしていきましょう。
あっという間の一日でした。晴天に恵まれた絶好の農業日和。ワークショップでの子どもの発言からは、成長ぶりがうかがえました。今度はまた収穫の時期に訪れたいです。
二本松農園の皆さん、本当にありがとうございました!!
→ 二本松農園HP