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活動レポート
2023.01.25 原発避難で分断を経験した福島で 高校生が出身地と自分に誇りを持てるように【一般社団法人 未来の準備室】

2022年度に助成先に新しく加わった団体をご紹介する連載シリーズ。

今回は、福島県白河市を拠点に活動をする「一般社団法人 未来の準備室」です。
原発事故で多くの人たちが避難を余儀なくされ地域が分断された影響が、今も福島の子どもや若者たちを取り巻く課題として残っています。未来の準備室は、子どもたちのキャリア教育や地域活性化につながる活動を通して、福島でも若者がやりたいことに挑戦できるよう機会を作っています。

未来の準備室の湯澤 魁さんより、活動紹介とメッセージが届きましたのでご紹介します。

湯澤 魁さん(ゆざわ かい)

1995年生まれ。兵庫県出身。一般社団法人未来の準備室 理事。
高校時代、東日本大震災を機に「灘校東北合宿」を立ち上げ、宮城・福島の沿岸部でのボランティアや地元神戸での情報発信を行う中で、東北の大人や同世代のかっこよさに惹かれる。大学進学後も東北に通い続け、学習支援や農作業等のボランティア活動に従事したり、全国・海外の高校生が福島県浜通りで地域の未来を考えるサマーキャンプを企画運営。若者の内発的な動機に基づくアクションを支えたいと福島県白河市に移住し、「コミュニティ・カフェEMANON」を拠点に、白河の高校生の居場所づくり・地域参画に取り組んでいる。

原発事故で加速した 若者の県外流出

地震や津波だけではなく原発事故による被災もした福島県は、遠方への避難や地域の分断を経験しました。
もともと、人口あたりの大学定員数が47都道府県中最も少なく、多くの若者が高校卒業とともに地域から飛び立っていく流れは昔からあったそうです。

そこで起きた原発事故による避難。さらには、繰り返しマスメディアなどを通して発信された放射能への不安などのネガティブなイメージが、若者の福島離れを加速していったように感じています。福島出身である自身のアイデンティティについて誇りに感じている子どもが少ないように見受けられますし、どこか謙るような自信の無さも伺えます。この10年ほどで、若い世代が抜け落ちていくことが地域全体の活力やにぎわいの喪失にも及んでいるように思います。

高校生たちにとって地域に関わる機会はわずかで、地域の魅力や課題を知らぬまま転出していきます。復興や地方創生を担うのは次世代の子ども若者たちだというメッセージも強く発信されてきましたが、高校生世代の気持ちや実現したいことに対して地域として受け止めることができているとは言い難い状況です。

高校時代は、自分の将来についてリアルに考え始める時期でもあります。その彼らの意志や感情をうけとめることができる場所の整備や、傾聴することができる人材の配置や育成が、震災後に進んだとは言えない状況が福島にはあります。長期的・広域的に影響が及んだ原子力災害によって、それぞれの地域の子どもの環境に合わせた社会教育の機会づくりまではまだ至っていないと受け止めています。

まずはやってみる 最初の一歩を後押しする「ユースボラセン」

事業の一つ「ユースボラセン」は、ハタチ基金の助成で運営をしています。福島県白河市において、高校生と地域とが互いに学び合うボランティアプラットフォームです。高校生の興味関心に合わせて受け入れ側と活動内容を調整し、地域のボランティア情報を集約しています。高校生に参加するきっかけを提供して、「まずはやってみることを大事にしよう」とスタッフが声かけをするなど機会を作るところから始まります。この事業は、私自身が東北でのボランティアで人生が動いたと感じているところから実装に至ったものです。

古民家のリノベーションを手伝う高校生たち。受け入れ先の方と一緒に活動をしながら交流して、地域の課題やロールモデルと出会います。

高校生と話していると、「やりたいことを聞かれてもわからない」という声を聞くことがあります。

白河の高校生Kさんは、「時間はあるけれど何をしたらいいかわからない」と話していたため、ボルダリングジムの模様替えボランティアを紹介しました。普段できない経験ができたことで地域活動に対して前向きになった彼女は、その後も未来の準備室主催のボランティアに複数回参加してくれました。

小学生の学習支援ボランティアに参加した帰り道、コーディネーターとの会話の中で彼女は「活動先の地域は子どもが減っている場所で、自分の地元と一緒だった。でも、人も集まっていたし温かかった。違いはなんだろう?」と気づきをつぶやきました。その後、コーディネーターとの対話を重ねる中で、「『ありがとう』の連鎖をつくりたい」という自分の気持ちに気づき、地元で「ありがとうポスト」という、普段は言えない「ありがとう」の気持ちを送る企画を考案しました。

コーディネーターはKさんの住む矢祭町の図書館で活動をしている地域おこし協力隊を紹介し、Kさんは自ら企画書を作成し思いをプレゼンしました。協力隊の方も親身に相談に乗ってくれて町の文化祭でのポストの設置が実現しました。その実践によって「『ありがとう』は人づてに連鎖するだけではなく、書いてみることで日常の小さな物事への感謝が芽生える連鎖も起こるんだ」と新たな学びを得て、「ありがとうポスト」の更なる発展に向かっています。

ユースボラセンの活動やコーディネーターの伴走によって、高校生の社会、地域、自己に対する解像度をあげ、社会において自らが何を成したいのか、どうありたいのかを探究していく最初の一歩をつくっています。

自分のやりたいことが地域の人のためになることへの気づき

もう一つ、ハタチ基金からの助成に支えられている事業は、「マイプロジェクト福島」のコミュニティ運営です。この活動では、福島全県で探究学習を実践する高校生とコーディネーターがつながる場を作り上げています。

福島県は広大で、その地理的な要因もあり、他の地域の高校生と接する機会がなかなか作れずにいます。マイプロジェクト福島では、年に一度のマイプロジェクトアワードを中心に、オンラインでの活動発表や対話の機会を設けています。高校生同士の交流を促すとともに、県内に偏在するコーディネーターも互いにつながり連携していく機会をつくり、分断ではなく協働による学び合いを生んでいます。

福島県県南地域でマイプロジェクトに取り組む高校生が、地域住民に向けて活動発表し、互いの学びを深める対話を行いました。

「もっと高校生が楽しめるイベントがほしい」「トレーディングカードゲームの大会を開きたい」白河の高校生Iくんは1年生の頃にこんな願望を話していました。一方で、彼は自分のやりたいことのためだけに動いてよいのか「もっと町のためになることをすべきではないのか」と葛藤を抱えていました。私たちは「自分のために動くことが、自分と同じような思いを持っている誰かのためになる。若者が自分のやりたいことが叶う地域が理想の地域のはずだ。」と背中を押し、結果、彼は町の文化財となっている歴史的建築物でカードゲーム大会を主催しました。
その経験が自信につながり、2年生になったIくんは「みんなでキャンプをやりたい」と次の企画を立て始めました。私たちと相談しながら場所を探しているうちに、3.11で土砂崩れで多くの人命が失われた経緯から防災機能が整備された「葉ノ木平震災復興記念公園」に彼は目をつけました。公園は行政が整備をして完成式典が行われた後はその機能は全く使われていませんでした。「平時に使われた経験のない設備が非常時に役立つわけがない」と考えた彼は、自らのやりたいキャンプと掛け合わせ、”備えるキャンプ『そなキャン』”を企画。地元町内会や行政、消防署を巻き込み、地元住民と高校生の計45名が一緒に防災体験するイベントを成功させました。自らのやりたい気持ちから始まった活動が、いつの間にか地域のために変わっていった事例です。

高校生が地域と関わり、自らのアイデンティティに誇りを持てる地域社会を実現するためには、若者とまちとをつなぐ役割を持った仕組みや、担い手であるコーディネーターを育成していくことが必要不可欠だと実感しました。

寄付者の皆さんへのメッセージ

ハタチ基金の助成をいただいたおかげで、昨年春からコーディネーターを専属職員として迎えることができ、地域を舞台とした高校生のアクションが数多く生まれています。震災や原発事故によってたくさんの人の悲しみや苦悩が生まれた一方で、新たなご縁に支えられたチャレンジもまたたくさん産声を上げています。皆さんの温かいご支援に心から感謝申し上げます。

福島を若者と地域との関わりの先進地にしたい。対処療法ではなく仕組みづくりに昇華させることで、若者のチャレンジが溢れる未来を皆さんと一緒に創っていきたいです。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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