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みんなのおもい
2023.02.06 震災の当事者でありたい 福島の高校生とまちとをつなげていく【東北から3.11に思いを寄せて】
夕暮れ時の、活動拠点がある奥州街道

東日本大震災からもうすぐ12年。ハタチ基金の活動も間もなく12年目に入ります。これまで、東北の被災した地域それぞれの場所で助成先団体が子どもたちと向き合い、一つ一つの課題を解決へと導くために奔走してきました。
現地で活動をしてきた団体スタッフたちに、東日本大震災にどのような思いを寄せているのかを改めて伺い、今の東北の現状についてご紹介します。

第三回目は、福島県白河市で活動をする一般社団法人 未来の準備室 理事の湯澤 魁さんのお話です。

湯澤 魁(ゆざわ かい)さん

一般社団法人 未来の準備室

福島県白河市を拠点に活動。高等教育機関のない地域課題の解決に向けて、2015年に事業を開始。高校生の地域の居場所「コミュニティ・カフェ EMANON」での実践や研究を核に、高校生の探究学習を支援し、地域とのつながりをコーディネートする。高校時代に地域との繋がりを感じ、生まれ育った地域に誇りを持てることで、将来のまちづくりや地方創生に繋がると信じて活動をしている。

ーー3.11は湯澤さんにとってどのような出来事だったのでしょうか。

震災当時、私は神戸市の中高一貫校に通う中学3年生でした。揺れも停電も経験しなかった私にとって、東北での出来事は他人事でした。毎日ニュースを見て、大変なことが起きていると認識しつつも、他国で起きている紛争や災害と同様に、自分とは関係のないこととして捉えていました。

転機は、高校の担任から釜石でボランティアをしてきた話を聞いたことでした。自分の親しい人が体験したことで自分と被災地域が繋がり、「千年に一度の大災害」を自分の目で見たい、自分にできることがあるなら役立ちたいと考えるようになりました。

その後、高校の生徒会内で「東北合宿」というボランティア合宿企画を立ち上げ、2012年3月に初めて東北に降り立ちました。(現在も母校灘中学高校での「東北合宿」は継続されています。)

地震から1年が経っても残る瓦礫の山と、以前の暮らしの風景が全く想像できない砂色の景色。目に見えない放射能の不安と、それでも続いていく日常。被害の果てしなさと理不尽な出来事に対する無力感を感じました。
一方で、東北で私が出会ったのはかっこいい大人たちと同世代でした。避難を強いられ涙を流しながら、それでも自分たちで町を戻していくしかないと立ち上がったおばちゃんたち。震災があったことで故郷を好きだと気づき、地元を案内するツアーを作った高校生たち。そして住民や高校生を昼夜問わず支えるボランティアやNPOのちょっと年上のお兄さんやお姉さんたち。その人自身の“オカシイ”や“ワクワク”の気持ちから実際に行動に移していく姿が、ずっと受動的に生きてきた私にとって眩しく見えました。

私にとって、3.11は自らが社会の当事者となった出来事だったのです。

出会いを経て、もっと東北と関わりたい、近づきたい、私も当事者でありたいと願い、東北に通い続け、現在は福島県白河市で高校生の探究活動や自己実現を支援しています。関わり続けてきたこの10年を鑑みると、自分は被災はしていないけれど、復興に対して当事者だと胸を張って言えるようになりました。

白河の高校生と今もなお避難の続く双葉町を訪れました。地元の方のまちを残したいという思いに触れました。

ーー活動を行う中で、今現在感じている地域の課題はどのようなものでしょうか?

 地震津波だけでなく原発事故の被災も受けた福島県は、人命や家屋の被害だけでなく避難や分断を経験し、少子化が加速した地域もあります。また、震災以前からの課題でもありますが、人口あたりの大学定員数が47都道府県中最も少なく、多くの若者が高校卒業とともに地域から飛び立っていきます。若い世代が抜け落ちていくことで地域全体の活力やにぎわいが失われてきました。

 家と学校との往復が生活の主を占める高校生たちにとって地域に関わる機会はわずかで、地域の魅力や課題を知らぬまま転出していきます。復興や地方創生を担うのは次世代の子ども若者たちだというメッセージも強く発信されてきましたが、希望の光だったはずの高校生世代の気持ちや実現したいことに対して地域として寄り添うことができているとは言い難い状況です。

背景には、町と若者とを繋ぎ社会関係資本を構築していく機会や、地域と高校生を繋ぐコーディネーターの不足や偏在があります。私たちは白河市においてこの課題と向き合い、高校生と地域とが互いに学び合うボランティアプラットフォーム「ユースボラセン」を構築。さらには、福島全県で探究学習を実践する高校生やコーディネーターがつながるコミュニティ「マイプロジェクト福島」の運営を行っています。

ユースボラセン事業で高校生が小学生への学習支援を行っている様子。統廃合で学校が減っても子どもの体験の機会や学びの場を作り続けたい!という地域の親御さんたちの思いにも触れました。
白河でも青春できることを証明するべく、まちの呉服屋さんとコラボして浴衣を着て写真撮影する高校生。

活動を通して、「白河には何もない」と言っていた高校生が、「あそこにはこれがあって、あ、そこのパンも美味しい」とそれぞれの目線で町を語れるようになっていくのがとても嬉しいです。

将来を考え始める高校時代に、少しでも地域の魅力や人の温かさに触れ、地元との接点を増やし福島出身の自身に誇りを持てるように。高校生に寄り添い挑戦の後押しができるよう活動して参ります。

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