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2024.05.27 東日本大震災で失った“子どもを見守るコミュニティ” 新たな居場所づくりへ

助成先団体の活動内容や、被災した地域の現在の課題をご紹介する連載シリーズ。

今回は、宮城県石巻市で活動をする「NPO法人TEDIC」です。

NPO法人TEDICは、経済的困窮や虐待、不登校など様々な困難におかれている子どもや若者に寄り添い伴走をしています。また、行政・民間の垣根を超えて、地域で育んでいく仕組みづくりに取り組み、コミュニティの再生に向けての活動も行っています。

TEDICの坂西明弥佳さんに、現在の石巻市の子どもたちにおける課題や、支援によって子どもや若者たちに起きた変化についてお話を伺いました。

NPO法人TEDIC 坂西明弥佳(さかにし あやか)さん

1991年、埼玉県さいたま市生まれ。大学時代に起きた東日本大震災をきっかけに東北で学習支援などのボランティア活動を行う。卒業後は、さいたま市で10年間の小学校教員生活を送る。教職にあたる中で、「もっと子どもと社会をつなげていきたい」といった思いが募り、NPO法人TEDICへの転職を決意。子どもが持っている力が発揮できるような居場所作りや、子どもの選択肢を増やす出会いの場作りに力を入れ活動を行っている。

震災前には存在した 子どもを見守る“地域力”の低下 

ーーTEDICが活動の拠点としている、石巻市の子どもたちの課題はどのような状況にあるのでしょうか?

坂西さん:東日本大震災後、顕著に起きている課題としてまずあげられるのは、コミュニティの弱体化です。震災前の石巻市では行政区や集落内の子どもが、“地域の子ども”として地域に見守られて育つことが当たり前のように行われてきましたが、震災後は大きく変化しました。地域の離散や住宅再建・移転によるコミュニティの分断、弱体化が起きたことで、震災前にあった子どもを見守る地域力も低下してしまったといえます。

コミュニティはセーフティーネットとして機能する側面があり、コミュニティの再生や見守り機能の強化も、震災後から現在に至るまで、町全体の課題となっています。

さらに震災以降、子どもたちが抱える困りごとは、個々に違って複雑になってきています。例えば、経済的困窮、親の精神疾患、ネグレクト、子の不登校、ヤングケアラーなど。ひとつの世帯で複数の課題がある状況下では、本人も家族もどこから手を付けたらいいのか分からなくなっています。また、それらの状況や要因は世帯ごと、子どもごとに異なっています。

大人と子どもがつながれる環境整備 新たな活動拠点と人材育成

ーー課題解決のためにハタチ基金の助成を利用してどんなことに取り組んでいますか?

坂西さん:現在、一軒家を活動拠点としていますが、その場所をTEDIC以外の地域の大人にも開放することにしました。「子どもをサポートする」という名目のもと、大人同士がつながり直すきっかけにしていきたいと考えています。そこでは、協働パートナーも開拓していくことで、つながりを一つでも増やし、子どものセーフティーネットが増えることを期待しています。

拠点は2か所を予定していますが、一つは、昨年度から解放している一軒家の事務所で「食」をテーマに拠点づくりを目指しています。「食」をテーマにした理由は、子どもたちにとって一番身近にあり、興味を持ちやすい分野であること。そして、食べることを通して仲間や生産者、大人たちとのつながりづくりに役立つと考えたためです。

フリースペース「タノマ」現在、大学生が中心となって「カフェ」のような空間も準備中。

坂西さん:活動拠点の開放や様々な体験活動などを通して、子どもたちには、地域の大人と出会える場ができます。そうすることで、困りごとがあったときに頼れる人や場所の選択肢が子どもの中で増えていくことがねらいです。

これからつくるもう一つの拠点は、「ケア」の要素を備えた場所を目指しています。私たちが宮城県から受託している、石巻圏域子ども・若者総合相談センターも併設する場所につくります。日頃から気軽に相談できる人がいることや、同じような経験をしている人の存在に気付き、安心して居られる場所が増えていくことを期待しています。

課題を抱えている子ども自身が、自分の興味や好きなことに対して主体的に取り組めるように。周りを巻き込みながら、イベントや地域活動を自ら企画し運営していけるような環境づくりをすることで、「自分にもできる」「変化している」という実感を持ってもらいたい。こうした経験を通して、自信をもって自分の「生き方」「働き方」について考え、行動していく力を育んでいけることを願っています。

ーー活動拠点をつくって子どもたちを見守るために必要なことはどんなことでしょうか?

坂西さん:新しい経験や人との出会いを増やす環境をつくることが必要です。そのためには、拠点内で完結せず、スタッフ自身が地域に出て、地域の大人や事業者とのつながりをつくっていくことで、協働パートナーの輪を広げることが不可欠です。

地域の大人と子どもが、一緒にクリスマスパーティーの準備をする様子。

また、自ら企画や運営について学ぶことで、地域を巻き込みながら自己実現や地域活動が行える基礎を作っていきます。

子どもや若者が、新しい人との出会いや環境の変化から「自分がやりたいこと」を見つけていってほしいです。

ーー子どもと地域の大人をどのようにつなげていきますか?

坂西さん:子どもと地域の大人や社会資源をつなげるためには、コーディネーターの育成が必須です。育成をひとつの事業とし、研修担当を置いたり、他団体の活動視察を行ったりすることで勉強の機会を充実させ、人材育成に努めていきたいと考えています。

ーー新しい活動を増やしたことで、子どもたちの変化を感じたことはありましたか?

昨年度、DIYのイベントを実施した際、実際に参考になりそうな現場を見に行くという企画での出来事でした。プレイワーカーが運営する遊び場を見に行ったり、DIYスタジオ(DIY STUDIO goods&interior)の様子を見学させてもらったりする企画。参加した高校生は、普段は初対面の人に自分の話をするような姿は少ないのですが、その日は、目新しい手作りの遊具や、工具がたくさん置いてあるDIYスタジオを見学しながら、自分の過去の話や家族の話、今後やってみたいことの話を初対面の大人に一生懸命話す姿がありました。その後、DIYスタジオの見学を担当してくれた方に何度か来てもらい、活動拠点のDIY企画を主導していただいたところ、その高校生も作業を覗きたりしながら、一緒の時を過ごしていました。出会う場所や出会う人が変わることで、「この子はこんな力をもっていたんだ!」と、子どもがもともと持つ力に驚かされることが様々な現場で起きています。今後さらに、子どもや若者の力が自然に出てくるような場作り、そして出会いを広げられる活動に努めて参ります。

DIYイベントの様子。高校生、TEDICの卒業生、学生ボランティア、地域サポーターなど様々な人たちが一緒に、事務所にある戸棚の色を塗り替える様子。

寄付者の皆さんへのメッセージ

私たちは、コミュニティの希薄化や困りごとの複雑化によって、子どもや若者が「心のひとりぼっち」にならない街を目指して活動を続けてきました。今回助成で実現した活動を通して、子どもにとって身近な人とのつながりや、同じような経験を共にする人たちの存在への気付きが生まれることで、困ったときに頼れる人や場所の選択肢が一つでも増えることを願っています。石巻市の地域の方々だけではなく、寄付をして見守ってくださっている皆さんもサポーターの一人だと思っております。「子どものために何かしたい!」そう考えてくれている大人自身が持っている力が、子どもや若者のために発揮できる場につながると、地域にとっても意味のある活動になっていくのではないかと考えています。今後とも、ご支援のほどどうぞよろしくお願いいたします。

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