
2021.02.25

宮城県を拠点に、2007年より活動を続ける「特定非営利活動法人まなびのたねネットワーク」
東日本大震災を機に、石巻地区などの沿岸部を中心に、課題を抱えた親子の支援を行ってきました。今回は、2022年に開設した、高校生・若者の居場所「しゅろハウス」に通う子どもたちの現状を伺いました。
特定非営利活動法人まなびのたねネットワーク代表理事 伊㔟 みゆき さん
20代半ばで参加した内閣府世界青年の船事業に参加し、教育分野に興味・関心を持つ。2006年末、仙台市内小学校でのキャリア教育の先進的な授業を見学したことを機に、現在の活動に参画。2008年にNPO法人化。
東日本大震災をきっかけに、宮城県沿岸部の被災地支援として、女川町、石巻市、塩竈市浦戸諸島桂島などに入る。沿岸部自治体の小・中学校に加え、高校生のプロジェクトに関わるようになる。石巻市立桜坂高校の開校に伴い、キャリア教育の授業づくりや多数の女子高生の進路相談、就職支援に関わる。震災当時小学生だった高校生や若者たちが育ってきた生活環境の過酷さ、そして支援体制の脆弱さを聴き続け「居場所」の必要性を感じ、2022年5月「しゅろハウス」をオープンした。
東日本大震災が引き金となり今へと続く 親子の課題
震災によって引き起こされた家族の課題は山積していますが、子どもたちはその状況が当たり前で育ったために、課題だと気づかずに我慢をしてこれまでに至っている子もいます。課題であることに認識が乏しく、言語化することも難しく、本人も周囲も気づきにくい状況が見られます。
例えば、震災により両親を失う経験や、家を流され避難所や仮設住宅暮らしを経て震災復興住宅へ転居をした家庭。住環境の問題に伴い家族関係が崩壊した後の両親の離婚などが起こっていますが、子どもたちは順応しようと必死に生きてきました。
また、震災によって、親が精神的に不安定になったり、精神疾患を患うケースが、子どもの心身の健康状態にも影響し、不登校につながっています。
母親への支援体制が弱かったことにより、母親の精神的不安定が長期化し、子どもとの関係性の構築に多大なる影響を及ぼし、負の連鎖が起きていると感じています。
いつでも帰って来られる「実家」のような拠り所
ハタチ基金の助成により、2022年に高校生や若者の居場所「しゅろハウス」をオープンすることができました。“高校生や若者が主役になるみんなのお家”というコンセプトで石巻市内に開設し、生きづらさや悩みを抱えている子たちが来ています。

しゅろハウスでは、そこに集う高校生や若者、そしてサポーターの大人たちが、夕食をともにし、家庭的な時間を送ることができます。みんなで夕飯づくりを行い食事をすることで、“擬似家族”のような関係性を構築でき、その先にあるSOSや「やりたい」という希望が言える良好な関係づくりへとつながっています。
個人差はありますが、一定期間利用することで、自立を促し“巣立ち”ができる子も。その後も、いつでも帰って来られる「実家」のような拠り所となっています。

必要に応じて、個別相談に乗り、解決もしくは課題軽減に向け、迅速な対応を行なっています。関係機関との連携はもちろん、行政機関、支援機関への同行、それが難しい時は関係者にしゅろハウスへ足を運んでもらい、当事者に負担をかけることなくスムーズな支援に繋げています。
課題は本人だけの問題ではありません。保護者の相談に加え、必要に応じて、利用者の兄弟姉妹、甥、姪まで、親族のサポートを行なっています。
また、不登校の中学生保護者の要望を受け、週1回昼に学習支援や体験活動、個別進路相談等を実施してきました。2025年10月、ハタチ基金の助成を利用して、フリースクール「ぱるむ」も開設することができました。

(しゅろハウス利用者・その保護者のエピソード)
・震災の影響で家庭の機能不全があり、月末になると冷蔵庫が空っぽになるご家庭。しゅろハウスに来ることで、月末の食べ物の心配が減ったという声がありました。
・就職に悩んでいた若者が、しゅろハウスで企業の社長と会い、就職につながりました。
・精神疾患を持っている子が、落ち着いて過ごせるようになりました。大学に復学して担当教授から「表情が変わっていて分からなかった」と言われたそうです。
・小学生の頃、震災で両親を失ったお子さん。しゅろハウスに来る前は、短くて1日、長くても1ヶ月で仕事を辞めてしまい続きませんでしたが、その後、同じ居酒屋でのバイトが2年半続き自信につながりました。今は、飲食チェーン店でフルタイムで働いています。
・高校中退し、一旦は自立した10代の若者がつまづき「お金がない」「死にたい」と泣いて訴えてきたましたが、相談を聞いてもらうことで
気持ちが落ち着きました。自分がやりたいと思っていたことをするために、たくさんの人が応援してくれることに気づき、励まされたそうです。今は、自分の道をしっかりと歩んでいます。
・「友達がいない」と家で、毎晩泣いている若者が頻繁に通うようになり、大好きなカラオケや同年代とおしゃべりをするように。生活に少し余裕が生まれ、部屋の掃除をするようになりました。
・現在引きこもりの小・中学校の友達を連れて来た子どももいます。
・しゅろハウスでいろんな子に接しているうち、家族の発達障害に気づき、特性が理解できたことで家族間での関係性の改善につながっています。
長期的に活動を続けることで顕著になる親子の課題
昨年夏より、他団体と連携して、居住支援を始めました。しゅろハウスの一部屋を、いつでも住める状態に体制を整えたことで、深刻な家庭状況の子どもの支援にもつながっています。
最近、高校のスクールソーシャルワーカーや他の支援機関からの紹介で、様々な課題を抱えた女子高校生の相談が増えてきています。中には、幼少期から虐待されていたり、高校中退し引きこもり気味であったり、発達系の課題を抱えていたり。まだ利用者数は少ないですが、かなり深刻な状況の子もおります。特に17-18歳の高校生は、制度の狭間で受け皿となる支援機関やサービスが脆弱な状態です。そんな子たちも安心して過ごしたり、一時的に暮らせるように、支援内容の幅も広げています。
私たちが支援をすることで、笑顔が増え、精神的な安定につながっていると感じています。また、食卓をみんなで囲むことで、心身の健康にもつながっています。
震災当時は大きな問題になっていなかったことでも、長期で地域の子どもたちを支援していく中で、課題が見えてくることがあります。また、長く活動を続けることで、地域の関係機関との連携が強固になるため、助けの手を増やすことができています。
「しゅろハウスがあってよかった」「しゅろハウスに来れて幸せです」と言葉にする高校生や若者、保護者が増えてきました。しゅろハウスがあるおかげで、若者たちは「頼れる場所がある」と少しずつ前に進むことができています。この居場所を守り続けられるのは、支援をしてくださっている皆さんのおかげです。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

2021.02.25